冬日和こんにやく玉を粉に搗くと白きほこり立つ水車小屋の上
この道にいくつかめぐる水ぐるま蒟蒻だまを搗きてゐるらし
み山よりただに引くらしこの庭の筧の水のあまたうましも
わたり行く南牧川の橋のべに赤くみのれる柿の木高し
山がひの蒟蒻どころの小春日に泥鰌になひて賣りあるくなり
ふかぶかとつもる雑木の落葉の上朴の落葉の大きさびしさ
家いでてわれ来にけらしこの山の深き落葉を踏みつつぞ行く
しづかなる初冬の山を恋ひくれば楓のもみぢ赤くのこれり
山の上の冬日あかるし瀧の水ほそく落ちつつ音のさやけき
山くだるわれをあはれみ寺の僧つつじを伐りて杖にくれたり
冬ふかみ流れ塞がる川口に大き真鯉のひそみ居るらし
朝早み大き竃に焚きつけて味噌豆を煮るその味噌豆を
冬至の日和しづけく産土神の赤き鳥居をくぐりけるかも
あきいへの隣の庭にちりしける檜葉の落葉に霜ふりにけり
花すぎし庭の八つ手の花茎のうす黄さびしく日はてりにけり
子どもらは焚火するらし朝霜の白き外面をわれは見なくに
おのづから息ざし安し秋晴れのあかるき國に帰りてあれば
秋深きこのふるさとに帰り来りすなはち立てり柿の木の下しに
柿の木より柿をもぎつつ皮ながら一つ食みたりその甘柿を
このあした母は枝豆をうでにけり田の畔豆のうまし枝豆
ふるさとの秋も寒くぞなりにける門の蕎麦畑に雨のふりつつ
けふもかも秋雨寒し あかあかと爐の火を焚きて栗やくわれは
冬日しづかに大川岸に泊りゐる舟の匂ひのあはれなりけり
ひさびさにみ墓へ行くと道すらも迷ふ心を持つがすべなさ
おくつきにささげまつると早春の寺の井戸水わが汲みにけり