和歌と俳句

古泉千樫

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おのづから頭をあげて歩みくればみ濠の土手に曼珠沙華赤し

たまたまに永代橋を赤き灯の一つ走れりさ夜ふかみかも

朝さむみ路まがりゆく崖のかげ銀杏の落葉黄におびただし

をさな兒の手をとり歩む道のへにみそさざい飛び日は暮れむとす

群れゐつつ鵯なけりほろほろとせんだんの實のこぼれけるかも

のびのびと朝の縁に立ち門畑の麦の芽にふる雨を見にけり

斯くしつつ幾日とどまるわれならむ麦の芽ぬらす雨の静けさ

はてしなく土のつづける夜の原を渦まきとほる木枯の風

移るべき家をもとめてきさらぎの埃あみつつ妻とあゆめり

きさらぎのあかるき街をならび行き老いづく妻を見るが寂しさ

藪かげゆ小舟にのりて水たぎつ鬼怒川わたりぬ春の寒き

鬼怒川を西にわたりて土踏めば今さらさらに君ししぬばゆ

春の野の大野がなかをみつみつし鬼怒の流れは激ちやまずも

道入れる雑木林にひともとの辛夷白花にほひてありけり

林間に沼あかりしてころろころろ蛙かつ啼く一人い行くに

巌角につみてかなしもひと茎にひとつ花咲くかたくりの花

篠懸木の新芽日に照るこの道を歩き行きなむおもてをあげて

白黄の朴の木の花いちじろくいまはなげかじ寂しかりとも

はるかなる逢ひなりながらほのぼのとなごりこひしき朴の木の花

曇り日の若葉やすらかに明るかり墓地を通りて湯に行くわれは

ひそかごと持つとはいはじ曇り日の若葉明るく親しきものを

いちじろく墓原の土に散りしきしいちしの花もすぎて久しも

そぞろ来て独歩が墓に出でにけり煙草吸はむと袂をさぐる

百日紅に日ははや照れり朝戸出で汗ばむ顔を拭きつつゆくも

いそぎつつ朝は出でゆく街角に咲きて久しき百日紅の花


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