和歌と俳句

古泉千樫

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

ものなべて忘れしごとき小春日の光のなかに息づきにけり

小春日の林を入れば落葉焚くにほひ沁みくもけむりは見えず

あたたかに焼野の土をもたげゐるさわらびの芽のなつかしきかも

さわらびはいまだのびねば箆もちて土ふかく掘る山のやけ野に

うすじめりかわきゆく野にわらび芽ぐむ土のふくれのわれつつ小さく

草萌えてあかるき山の石の上にわれも休めり妹もやすめり

にごり河の岸の小笹に押しならびつばくらの子は鳴きて居にけり

ひえびえとさ霧しみふる停車場にわがおり立ちぬ暁は遠かり

ともし火を消してあゆめば明け近み白く大きく霧うごく見ゆ

霧はるる木立のうへにうす藍の富士は大きく夜はあけにけり

富士の嶺を離りしさ霧片よりに大戸をなしてそばだてにけり

太陽はすでにたかけれ灰ぐろく片よれる霧のうごかざるかも

明日のぼる富士の高嶺を仰ぎつつ裾野の湖に舟こぎあそぶ

富士が嶺を深くつつめる雨雲ゆ雨はふるらしこの夜しづかに

むらさきの夕かげふかき富士が嶺の直山膚をわがのぼり居り

七合目の室のあかりを見すぐしてなほのぼり行く暮れわたる富士

あかときの星かがやきてくろぐろと富士のうただき目の上に見ゆ

うちどよむあらしの底にこほろぎは鳴きてありけりとぎれとぎれに

入りがたの月のひかりに壁の色ほのかに赤くこほろぎ鳴くも

常盤木に冬日あたたかに小鳥なくわが故郷ぞ安く眠らな

黄いろなる水仙の花あまた咲きそよりと風は吹きすぎにけり

ふるさとの日光のなかひやりひやり水仙の葉を踏みて居りけり

たけたかき棕櫚の木かげは水仙の青きが上にうつりてゐたり

桃のはな遠に照る野に一人立ちいまは悲しも安く逢はなくに

との曇る春のくもりに桃のはな遠くれなゐの沈みたる見ゆ


額田王 鏡王女 志貴皇子 湯原王 弓削皇子 大伯皇女 大津皇子 人麻呂歌集 人麻呂 黒人 金村 旅人 大伴坂上郎女 憶良 赤人 高橋虫麻呂 笠郎女 家持 古歌集 古集 万葉集東歌 万葉集防人歌
子規 一葉 左千夫 鉄幹 晶子 龍之介 赤彦 八一 茂吉 牧水 白秋 啄木 利玄 憲吉 耕平 迢空