和歌と俳句

古泉千樫

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こもりゐて心はさびし向つ田をすきかへしゐる人の声きこゆ

わが家に今年も巣くふつばくらめ出で入る見つつ涙ながれぬ

走りつつ仔牛あそべり母ひとりこの家もりて働きています

わくらばに吾れも弟もかへり来てこの古家に男の声す

梅雨ばれのあかとき靄の立ちうごく峠の驛に顔あらふかも

あかときの峠の驛に水のめり超え来し山山靄こめむとす

青田のなかをたぎちながるる最上川齋藤茂吉この國に生れし

梅雨ばれの光のなかを最上川濁りうづまき海にうづるかも

この海の沖のすなどりわが見むと最上川口舟出するかも

さみだれの最上くだりけむ大き鯉海に喘ぐを手に捕へたり

海の上にうちいでて見れば雪ひかる鳥海山に日はまとも照れり

あからひく朝靄はるる土手の上に雉子光りて見えにけるかも

おのがじし己妻つれて朝雉のきほひとよもす聲のかなしさ

さ青なる蕗の丸葉に尾を触りて雉子しまらくうごかざりけり

沼の香のにほひしみらに照りそよぐこの蘆原のよしきりの声

わが家の古井のうへの大き椿かぐろにひかり梅雨はれにけり

年ながく拂はぬ井戸の梅雨濁り匂ひさびたる水になりけり

水垢の匂ひまがなし汲み汲みて井戸の底ひにおり立ちにけり

みちすがら鉄砲山の笹はらに蓬は摘みて手にあまりたり

障子あけて庭の若葉の明るきに夕餉よろしき夏さりにけり

青空を雲ゆくなべに身のめぐり暗く明るくゆらぐ若葉

甕の中に紅き牡丹の花いちりん妻がおごりの何ぞうれしき

うつし身のわが病みてより幾日へし牡丹の花の照りのゆたかさ

これの田を植うるにしあらし畦の上に早少女ならべり十五六人

うちならび植うる人らのうしろよりさざなみよする小田のさざ波


額田王 鏡王女 志貴皇子 湯原王 弓削皇子 大伯皇女 大津皇子 人麻呂歌集 人麻呂 黒人 金村 旅人 大伴坂上郎女 憶良 赤人 高橋虫麻呂 笠郎女 家持 古歌集 古集 万葉集東歌 万葉集防人歌
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