和歌と俳句

種田山頭火

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草も木もうち捨ててあるところの茶の花

雨ふる落葉おちつく

雑草、どこからともなくレコードうた

茶の花さいてここにも人が住んでゐる

寝てゐるほかない茶の花のいつまでも咲いて

百舌鳥のするどくぬける歯はぬけてしまふ

みちはすすきへ、すすきをくぐれば水

ともかくも生かされてはゐる雑草の中

をんな気取つてゆく野分ふく

蛇がひなたに、もう穴へはいれ

柿もたわわに村一番の物持の屋敷で

灯影が水に、落葉する樹もありて

バスと汽車と寒い灯が灯が走りくる

ふけて戻ればたどんがひそかに燃えてゐた

山山もみづりそのなかよい湯のわくところ

しぐれてはそこらで山羊のなく変電所

豆腐さげてしぐれて濡れてもどる

今日から禁酒のしぐれては晴れる空

菜葉しぐれてきたこやしをやらう

ほんに晴れわたり木の葉のとぶことも

ここを死に場所とし草はしげるままに

雑草も声ありてしぐれ

病めば梅干のあかさ

誰にもあはないとうがらし赤うなる

かうまでからだがおとろへた草のたけ

すつかり葉をおとしてしまつた柿の木へ旅から戻つた

ほつと入日のさすところ草の実

やうやくおちつけて茶の花や

こゝに枯れたるこの木冬となる

大根漬けてから長い手紙を書く

ひなたはあたゝかくやがて死ぬる虫

いつとなく草枯れて家が建ち子が泣いてゐる

お寺の鐘が鳴りだしました蔦紅葉

病めるからだをあるかせてゐるよ草の実よ

虫なくや咳がやまない

なんだか人なつかしい草はみのつてゐるみち

あまりひつそりして死相など考へては

山のぬくさはりんだうのひらく

酒を買ふとて踏んでゆく落葉鳴ります

藪のむかうまで夕日のつばふき

なんぼう考へてもおんなじことの落葉をあるく

そこに夕月をおき枇杷は花もつ

冬夜むきあへるをとことをんなの存在

木の葉ふるところ眼をとぢるとき

ひかりは空から少女らはおどる

水にそうてくだれば草の枯れまさり

あのみちのどこへゆくもみづる山こえて

空ほがらかで樽屋さんがいそがしい

まこと山国の、山ばかりなる月の

ずうつと晴れてならんで旗の信号

蓼のあかさも秋ふかいひなたの仕事

木の葉ちればまたハガキかく

考へつつ歩きつつふつと赤いのはからすうり

落葉ふかく水むめば水の澄みやう

雨の落葉の足音は郵便やさんか

寝たり起きたり落葉する

すつかり柿の葉は落ちて遠く灯つた

ひとり寝てゐるわらやしたしくしづくする