和歌と俳句

山口誓子

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水練の清き渚を海人通る

干梅の程隔りてうつくしき

干梅や眼をやるたびに紅に

遠泳の天を汚せす船煙

すはだかの子が甲虫を角で持つ

夏の月ゲートルの寝の眠り落つ

夏の月多度の山辺は暗からむ

終に疾風の中に声を絶つ

金粉を指に曝書を宰どる

宰どる曝書といへどわれ孤り

虫干に通ふ白浪絶えもせぬ

虫干の終りに近く入日さす

巌の秀に殻をすすむる蝸牛

水甕に浮べる蟻の影はなく

海を出て轡鳴らしつ冷し馬

横向きに鳴く見えて喧し

鬼灯を地にちかぢかと提げ帰る

やはらかき稚子の昼寝のつづきけり

蝸牛角ならべゆき相別る

殻曳いてややに行きあふ蝸牛

青林檎しんじつ青し刀入る

ひとつなほ数へて増す蟻地獄

涼しさに眼鏡の端の星流る

すずしさに水の走れる甕に杓

晩涼の駅や転轍したる音