和歌と俳句

野村喜舟

紫陽花や隣の謡杜若

牡丹や仏乗らるゝ獅子はなく

牡丹や東海禅寺尋ねあて

百合さすや地獄廻りの駕の中

藪蔭の五月はじめや著莪の花

著莪咲くや地水火風は塔の文字

著莪咲くや御陵守の眺め草

十薬や雨の流るゝ小坂越

長雨や十薬匂ふ井桁なる

の堅きが上の煮〆かな

麦刈や西日が強き中のこと

麦秋や雨の一日鯰釣り

六月日光はよき杉並木

小峠や青田の風を吹き上げに

帆が飛べば刀根川長う青田かな

白扇や筑紫の海の夕凪に

腕白や汗ぼひろがる芥子坊主

ふところに薄句集や夕涼み

月の出や幼きものゝ門涼み

虫干や金沢文庫経ばかり

虫干や散らぬ三十六歌仙

葭切や河童二人の盥舟