和歌と俳句

飯田蛇笏

心像

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父逝くや凍雲闇にひそむ夜を

つつぬけに人のこゑごゑ冬佛

冬灯死は容顔にとほからず

香げむり寒をうづまく北枕

焼香す冬ただなかのかりもがり

家を去る柩のはやき冬日かな

冬日影はふり火もえてけむらはず

つるぎなす雪嶺北に野辺おくり

法要の箸とる僧や雪起し

菜園の雪に雨つぐ松の内

しづはたや山べのかすむ十四日

山祇へ田みちづたひや弓はじめ

初日かげ積雪の牙に潮なぎぬ

雪解富士樹海は雲をあらしめず

梓川風波だちて残花ちる

ひとそばへ微涼あらたに小いかづち

かりかりと柴の雪たぶ炉ばたかな

うち霽れてしづくする茶のつぼみかな

はせを忌や月雪二百五十年

猿むれてうすゆきけぶる樺林

鏡なす暮春の湖をわたりけり

花粉まふ土筆とみれば雨がふる

河鹿なきおそ月朧をてらしけり

酪農の娘にうす雪やなづな摘

秋の灯をみつむるばかり雲のこゑ

はつ日出て岬のしりぞく海波かな

ひとりゆく砂丘の雪や大初日

瀧の端のやぶたちばなや春の雪

鍬ふるふ学徒は派手に春の土

小駅の薄暑にキャベツ玉むすぶ

耕牛に多摩の磧べ咲けり

多摩みちの野茨うつる鮠の水

桑の實や奥多摩日々に小雷

くちなしに傘さしいづるあめのおと

野いばらのあをむとみしや花つぼみ

埃りだつ野路の雨あし夏あざみ

籠にして百草夏のにほひかな

小降りして山風のたつ麦の秋

蕗ひたる渦瀬にかかり鮠をつる

座右の書に麦の秋風かよひけり

病窗に神座の雲や夏ふかむ

秋の富士日輪の座はしづまりぬ

渓べまで夕雲下りくる秋の嶽

嶋々のみたまを夢に秋の風

やまびこのひとりをさそふ拾ひ

苔庭に冷雨たたへてうすもみぢ

萬斛のつゆの朝夕唐がらし

晴るる日も畑霑ひて唐辛子

豊穣の日和をくだる棚田径

白菊のあしたゆふべに古色あり