和歌と俳句

篠原鳳作

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麻衣がわりがわりと琉球女

踊衆にきまつてゐるや甘蔗盗人

良い月にうかれて甘蔗ぬすみけり

舟にゐて家のこほしき雨月かな

天津日に舞ひよどみゐる鷹の群

鷹降りて端山鳥は啼きまどふ

夕されば小松に落つる鷹あはれ

荒波に這へる島なり鷹渡る

和田津海の鳴る日は鷹の渡りけり

知らぬ童にお辞儀されけり野路の秋

つばぎ舟多くなりたる踊かな

織初めの女にまじる漢かな

海の風ここにあつまる幟かな

たどたどと蝶のとびゐる珊瑚礁かな

蝶々とゆきかひこげるカヌーかな

春暁や声の大きな水汲女

村の童の大きな腹や麦の秋

鱶のひれ干す家々や島の秋

汐しぶき宮居を越ゆる野分かな

大いなる日傘のもとに小商ひ

傘日覆莚日覆の出店かな

青簾つりし電車や那覇の町

この辻も大漁踊にうばはれぬ

和田津海の鳴る日は鷹の渡りけり

豚小屋に潮のとびくる野分かな

石垣にともす行灯や浦祭

をとこらの白粉にほふ踊かな

踊衆に今宵のきびの花づくよ

この辻も大漁踊さかりなる

廻りゐる籾すり馬に日静か

ストーブや国みなちがふ受験生

ガチャガチャの鳴く夜を以てクリスマス

手づくりの蝋燭たてやクリスマス

聖誕祭かたゐは門にうづくまる

一堂にこもらふ息やクリスマス

マドロスに聖誕祭のちまたかな

笹鳴やけふ故里にある思ひ

受験生かなしき莨おぼえけり

行人を恋ふることあり受験生