和歌と俳句

篠原鳳作

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ほしいままおのれをなげく時もなく

「疲れたり故に我在り」と思ふ瞬間

我も亦ラツシユアワーのうたかたか

我が机ひかり憂ふる壁のもと

夜となれば神秘の眇灯る壁

くしけづる君がなげきのこもる壁

古き代の呪文の釘のきしむ壁

幽き壁夜々のまぼろし刻むべく

にぎりしめにぎりしめし掌に何もなき

睡りゐるその掌のちささ吾がめづる

赤ん坊を泣かしをくべく青きたたみ

泣きじやくる赤ん坊薊の花になれ

赤ん坊の蹠まつかに泣きじやくる

太陽に襁褓かかげて我が家とす

赤ん坊を移しては掃く風の二た間

指しやぶる音すきずきと白き蚊帳

目覚めては涼風をける足まろし

太陽と赤ん坊のものひらりひらり

赤ん坊にゴム靴にほふ父帰宅

かはほりは月夜の襁褓嗅ぎました

みどり子のにほひ月よりふと白し

指しやぶる瞳のしずけさに蚊帳垂る

吾子たのし涼風をけり母をけり

涼風のまろぶによろしつぶら吾が子

涙せで泣きじやくる子は誰の性

よバラを登りつめても陽が遠い

天地にす枯れ葵と我痩せぬ

夏痩せの胸のほくろとまろねする

ハタハタの影して黍にとまりけり

炎天や川涸れはてし蘇鉄林

墓参や昔ながらの小せせらぎ

屋根替の加勢の中の器量よし

日傘さしてはだしの島女

首里城に桑の実盗りの童あり

はぶ壺をもちて従ふ童かな

いとけなき少年にして毒蛇捕り

慈善鍋三井銀行の扉の前に

先生も生徒も甘蔗の杖ついて