和歌と俳句

春暁 春の夜明け

春暁や雨を疑ふ妻の耳 草城

春暁や枕元なる歌屏風 淡路女

病む人に春の曙自ら 青畝

春暁のいかにして覚めし雀かな 石鼎

春暁のからたち垣や深緑 石鼎

春暁や神かとわたる蹄音 石鼎

春暁や神のごとくに霊のかげ 月二郎

春暁の星をうつさず相模灘 かな女

春暁やしらみそめたる床柱 万太郎

春暁や雨のあらひし松の幹 万太郎

春暁の窓掛け垂れて眠りけり 久女

春暁の夢のあと追う長まつげ 久女

春暁や二重カーテンそのままに 石鼎

春暁や寝床に思ふ梅の花 石鼎

春暁の不二立つ駅に子を送る 

春暁のひろき渚に流れ寄る 誓子

体温計春暁あはき燈によめる 誓子

春暁や声の大きな水汲女 鳳作

春暁や土間のひよこの鳴きやみし 石鼎

春暁の日の来れば露光るなり 石鼎

春暁の靄に燐寸の火をもやす 多佳子

ふるさとの春暁にある厠かな 草田男

春暁の雨よ口笛とほくより 桃史

春暁の樹々の雫にをろがみぬ 野風呂

春暁の靴なり鉄蓋を踏みしなり 誓子

春暁の勤め一途にゆく跫音 誓子

春暁の肋木の上を船ゆけり 槐太

春暁の壁の鏡にベツドの燈 波郷

春暁の川を煤煙わたりそめ 波郷

大阪城ベッドの脚にある春暁 波郷

春暁のまだ人ごゑをきかずゐる 波郷

春暁の睡たき顔を洗ふのみ 波郷

春暁やまことに玉の玉椿 虚子

春暁の橋を風塵わたるなり 草堂

春暁や水ほとばしり瓦斯燃ゆる 汀女

春暁の夙にいそしむ煮炊かな 麦南

見るほどの春暁の雪ひとり見る 

ながきながき春暁の貨車なつかしき 楸邨

春暁の雲咲き八重の薔薇となる 友二

消えのこる春暁の灯も机上なる 秋櫻子

春暁のぬれし築地にむかひゐる 秋櫻子

春暁の啼くとき鴎やめば雪 楸邨

春暁の水脈二岐れ明けきたる 楸邨

春暁の南北の濤ひびきあふ 楸邨

春暁の大山に濤はみな向けり 楸邨

春暁の戸の隙間より目覚めける 知世子

春暁の眠れる子等を二階にし 汀女

春暁の川の激ちもしらじらし 誓子

春暁にたゆたふ花のあるばかり 占魚

延着といへ春暁の関門に 汀女

春暁の撫ずれば光る柱かな 知世子

春暁をゆめ見て我をおもふとか 占魚