和歌と俳句

春暁 春の夜明け

春暁や谷地より出づる道かがやき 林火

春暁やいささか長けし松の蕊 万太郎

夜の大雨やがて春暁の雨となる 秋櫻子

戸ささねば春暁見ゆる庭の石 秋櫻子

春暁の此岸彼岸自転車ゆく 誓子

春暁曳く一貨車一本の大き欅 楸邨

春暁へ貧しき時計時きざむ 三鬼

子の声の方へ春暁歩みをり 波郷

春暁のはるけく眠る嶺のかず 龍太

春暁の幹もふるさと川鴉 龍太

無人島ならず春暁犬走る 誓子

春暁や旅寝の床の襖寄り 真砂女

春暁の風雨の底の一漁港 秋櫻子

春暁の客舎ゆるがす怒濤あり 秋櫻子

春暁をしづもる道の旧きため 誓子

春暁のあまたの瀬音村を出づ 龍太

春暁や末まだ覚めぬ花の列 秋櫻子

春暁のうすむらさきに枝の禽 蛇笏

春暁の雲とびとびや櫻島 青畝

大陸橋春暁のレール抱きかかへ 林火

春暁の舐めたるごとき濡れ渚 風生

春暁やしらみそめたる床ばしら 万太郎

春暁の汽笛明石の大門なり 誓子

春暁を覚めし己のありどころ 汀女

春暁や一点燈の大伽藍 青畝

夢さめて春暁の人みな遠し 汀女

春暁の佛間に隣るめざめかな 林火