和歌と俳句

石田波郷

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早春や胸高に出づ予後の月

梅も一枝死者の仰臥の正しさよ

浅春の園舁かれゆく一薄屍

三月風胸の火吹かれ打臥すも

遠き木の元に猫居り春雷

春雷の熄みし口洞閉づるかな

諸星や栃の太芽にさやぎつつ

花しどみ五十の草田男若々し

春疾風屍は敢て出でゆくも

緋桃菜の花遺残空洞胸に抱く

病床に墨磨るは目を細め

春日残照病室同じ色に灯す

病室に巣箱作れど燕来ず

屍運ぶ春丸顔の看護婦達

目刺一連稜いよよ永からむ

つばくらめ父を忘れて吾子伸びよ

頬白の咽喉母のこゑ専らなり

講堂に春斜陽のみピアノ打つ

雪柳ふぶくごとくに今や咳く

の昼病者の読書顔かくす

創痛や春の山鳩応へつつ

枕べに蝌蚪やすみなき手術以後

蝌蚪の鉢病者に逆らふこと勿れ

蝌蚪泛けり病者の悔は遅く永く

蝌蚪群るる限り君癒えよ我は否

麺麭屑を蝌蚪にやる他の生もなし

あかあかと栄ゆれども咳地獄

の前妻は洩罎をさげて過ぐ

雛の灯われは盗汗を拭かれをり

春嵐鉄路に墓を吹き寄せぬ

春嵐弔歌一括せしを讀む

病兒睡て入学ちかきかなしさよ

春嵐鳴りとよもすも病家族

一樹無き小学校に吾子入れぬ

雨雲の暗き母と子入学

菜の花墓群見ゆるばかりなり

肋切りし日ははや遠し蝌蚪見れば

松の蕊赤きとき又菌を出す

墓への道春の荷馬車に後れつつ

子の髪の春の捲毛や墓地の中

黒くしづかに墓洗ふ水温みたり

早春の暁紅の中時計打つ

子の声の方へ春暁歩みをり

浅き水に泛びて山の蝌蚪あかし

病者吾が畦凹め立つ蝌蚪の水

谷のゆらぐわが息しづめをり

珈琲濃しけふ落第の少女子に

春嵐心難民めく夜かな

馬鈴薯を植う汝が生れし日の如く

苜蓿に肋骨缺除感すべなし

焼工場左右に赭しや入学