和歌と俳句

蝌蚪 おたまじゃくし

都より来りて蝌蚪に執着す 誓子

くはえゐるたばこ火うつり蝌蚪の水 林火

蝌蚪の群焦土に子等置きにけり 楸邨

人前に秘めし笑顔を蝌蚪の前 楸邨

蝌蚪の水紅き火の粉のとび来る 誓子

粉黛を娯しむ蝌蚪の水の上 三鬼

くらやみに蝌蚪の手足が生えつつあり 三鬼

蝌蚪の阿鼻叫喚今日の日沈むと 三鬼

飛び散つて蝌蚪の墨痕淋漓たり 朱鳥

蝌蚪乱れ一大交響曲おこる 朱鳥

一匹の蝌蚪の骸に蝌蚪たかり 朱鳥

病みて長き指をぬらせり蝌蚪の水 波郷

蝌蚪の足生ふ一匹も剰すなし 波郷

思ひつくことたちまちに蝌蚪泳ぐ 汀女

悪寒来る頭脳のひだに蝌蚪たかり 朱鳥

枕べに蝌蚪やすみなき手術以後 波郷

蝌蚪の鉢病者に逆らふこと勿れ 波郷

蝌蚪泛けり病者の悔は遅く永く 波郷

蝌蚪群るる限り君癒えよ我は否 波郷

パン屑を蝌蚪にやる他の生もなし 波郷

蝌蚪覗く顔みなすゝけ日本人 欣一

水増して蝌斗の寄る岸高くなりぬ 誓子

いとけなく蝌蚪とミサとをゆきもどる 静塔

肋切りし日ははや遠し蝌蚪見れば 波郷

浅き水に泛びて山の蝌蚪あかし 波郷

病者吾が畦凹め立つ蝌蚪の水 波郷

すいすいと電線よろこび野へ蝌蚪へ 不死男

蝌蚪を見る病後の杖を抱きかがみ 爽雨

浮びつつ蝌蚪まだ水の底のもの 爽雨

古利根の釣場洗場蝌蚪むるる 爽雨

先頭のうづまきすすみ蝌蚪の列 爽雨

蝌蚪を飼ふ加減乗除の技拙く 鷹女

朝月に高名ならぬ蝌蚪泳ぐ 不死男

ぴりぴりと近江の蝌蚪が動きだす 静塔

林泉に蝌蚪大群の声沈む 不死男

蝌蚪の岸鞄が分銅の女子高生 不死男

一隅の蝌蚪のかたまり墨こぼし 誓子

生れきたりてはてなくおたまじやくしなり 楸邨

蝌蚪の水跨ぎ山守若夫婦 汀女