鵜は老いて人間の目のごとく見る
あきかぜやわが胸中のさるをがせ
あるじ今石となりをり鵙ばかり
満月や猫の子乳の匂ひ持つ
驚きし鴨の声にて闇は満つ
弱きものは死ぬか去るかと鵙はをり
色なき火赤き火となる秋の暮
鶲来と目くはせしをり道祖神
柚子匂ふ視野の一端海へ延び
ふきやめし旅の鬼灯何おもふ
ねむりたまへ眠れぬ刺は山帰来
霧は流れて静かな深さ馬の耳
風邪惹きの猫の寝息のかなしけれ
人間をやめるとすれば冬の鵙
初鶏や家中柱ひきしまり
負け独楽のつきささりたる深雪かな
近よれば土が匂へり飾り臼
冬柿は顔のごとしやひぐれどき
流れ藻とならざりし裳の冬の青
物言へばさむしと芭蕉円空に
橙にかの日の夕日今も落つ
春を待つ潮騒か世のどよめきか
生れきたりてはてなくおたまじやくしなり
枝蛙ねむしくらくら道祖神
花濡れてくらがりの底くらかりき