かざす手に時雨をはりのふたみ粒
くらがりやくらがり越ゆる北つむじ
国栖の紙ほの明るきは冬あかね
笹鳴が去つて大石動かれず
年越すか雪中山刀伐越えの文字
山刀伐に埋めきし胡桃年立つか
柚子匂ふ煩悩百八ふところに
初日の出塩壺に手をさしこめば
土龍打つさまを越後のむかし唄
石と石打つて生ぬ火を枯野原
今食ひし河豚の顔してかなしけれ
虚空なり雪ふたひらが逢ひて消え
疾駆して蟻はだんだん小さくなる
白牡丹散りたる音は知らざりき
葉の裏にひぐれの暗さかたつむり
でで虫の前は匍ふべき面ばかり
生れきて歩くつくつく法師にて
雨あがる樹下石上の蝸牛
うすばかげろふ産みゆくその身切に曲げ
朝がほに露やむかしは方丈記
路次路次に真赤な月を伊賀上野
月下美人は一夜の雄蕋雌蕋かな
秋風や脱ぎかけてまだ旅ごろも
柿の朱を置けば陶の朱よろこべり
しぐれ来し尼やかりかり柿を食ふ