和歌と俳句

加藤楸邨

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靴の底より舞ひ出て穂絮木曽川

流れきしが二つ縋りあふ

喉撫でて少女めつぶるねこじやらし

渡るきらきらと目は瞠りゐむ

蛇ぬけ道薄が恵那へ吹きあがり

はたはたを深追ひすれば入日たつ

機関車の皮はがれゆき秋の暮

霹靂や見えし蝗はとぶところ

青草ばかり蝗は青をかへられず

動くもの鰯雲のみまひる谷

持ちかへて秋風の荷の檜木笠

食へば食ふ柿に対して客二人

雨過天青檜原芒原息するなり

鶉の頭まるくあかくて入日どき

微は微にて邯鄲の髭風を待つ

石を出て石に帰れず野分仏

満月やたたかふ猫はのびあがり

山刀伐の深雪解けまで文字ねむれ

初鶏となりそこなひし鶏あるく

まぼろしの鹿はうつつも時雨かな

火を出でてきりきり白き秋の壺

汽車夜寒ねむらで読みし「夜明け前」

楚秋亡く波郷は病みて秋の暮

桟をのぞけばいまも赤とんぼ

秋の蜂マリヤ地蔵は乳の反り