和歌と俳句

加藤楸邨

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しぶとかるべしこの兜虫声出さば

白桃のゆるる鉄柱打ちこまる

けんらんたる女を消せば百日紅

顔の上にまた顔載せて野分

秋風の口閉ぢられぬ癪の神

しぐれきし我にあらずや癪の神

すべもなく催促金神しぐれをり

口よせてささやき明神遠しぐれ

しぐれゐて神と仏が寄せあふ肩

鼻蹴つてはたはた谷へ忿怒仏

思惟仏秋の青苔身にあふれ

婆羅門女天狗さびしき顔すころげ

霧にひらいてもののはじめの穴ひとつ

野分ふく腹に力を子安神

橡の実のころころ子安神の陰

ほのぼのと神のみほとの秋の暮

ゐのこづちふりはらひしが阿修羅をり

秋の暮なほ暮れぬ間を樹胎仏

神に仏になれぬ狼石に冷ゆ

消ゆる仏に稚なくそよぎさるをがせ

木曾谷の漂ふ日の出前

瀬の岩の秋陽炎の少女尻

渡り鳥乳房持つもの瀬に仰ぎ

を紗とし木曾の首なしマリヤさま

曼珠沙華泣かぬ少女の嫌はるる