和歌と俳句

山口誓子

構橋

開けて見る暖炉の制しきれぬ火を

寒き沖そこに用ある舟が行く

寒き海祷りはそこに寄りてする

寒月が照らす死したる岩の谷

こがらしに寝むと枕に眼をあてて

冬山家遠き伊勢より日差し来る

冬死ぬ河ルオーの画にもありし河

炭を挽く木たる抵抗ややつづき

おさな子が咳す焚火の穂に向ひ

柊がサラダにありし聖夜餐

長い間会堂を暗に聖夜劇

燭持ちて聖夜を唱ふ顎照らす

元旦の道赤天馬赤蝙蝠

邸坂羽子つくもこの傾斜にて

啓蟄や燈で逆撫づる黒仏

春暁に覚め燈台を消す由なし

春暁をしづもる道の旧きため

春暁の若き咳女ひとり増え

しんと名張春の暮より夜にかけて

春月の下ゆく汽車の煙の束

東風の満船飾旗の形せず

崖の下より捧げ来し紅椿

廃水族館春潮の照りかへし

朱塗船体春潮に入るべき時

船尾より入る春潮の押して来る

三菱の春潮進水式濁り

大和また新たなる国田を鋤けば

岩の間に手をさし入れて磯遊び

街道駛る渦潮に時遅れじと

渦潮の中に入りゆく舳を向けて

渦潮を見むとて立ちて縋りあふ

渦潮の中百畳を敷く平

渦潮と回る鳴門の壺のもの

湾の一隅がこゑを出す

が鳴きやむ水脈の末広がり

わが糞尿撒きし上蝶とびまはる