翅の虫船を陸地と思ひしや
陸に上がれば爪先へぎすのこゑ
冬の岬椀は海より着きしもの
半輪の寒月光に奈良照らす
忽ち小隧道忽ち枯山中
闇に焚火いかなる処何の為
風邪の身を他郷の山の影に入れ
日向ぼこ犬の房尾は光なり
ここも親不知真近くに鴨浮び
鰤場より大台ケ原空に遠し
しばしとて吉野川原に年木積み
他の紅は劣る真紅な出初式
燈台光椿林にあたり散らす
燈台の転光椿山潜る
四月驟雨田舎教師の服臭ふ
遍路負ふ米の重たき膨らみを
逆遍路室戸の岬をひとり過ぐ
海道を暮れて歩ける遍路ひとり
遍路夜明かす岩壁の洞窟に
孕み鹿肘にて起ちしことも見る
崖削ぎし山中にして猫恋す
工笛が一散に去る夜の桜
落花とぶ時の外には生きられず
谷深く刳れて落花一片とぶ
苜蓿を女素足で駆け狂ふ
灌木視せし虎杖がさらに長け
病に屈しゐしが岩より蕨生ゆ
メーデーを女と山の草深に
ラムネなど何の足し労働の前に飲む
風騒ぐ新樹吾身もさだまらぬ
新緑へ数歩出しとき金堂鎖す
新緑に美貌の母を子が誇る
新緑に犬が真夏の呼吸づかひ
足先で授乳喜ぶ緑世界
雲の峰わが選句業覗き込む
外燈のふらつく鉄笠青あらし