和歌と俳句

中村汀女

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雨一過竹林深き初音かな

畦焼きて家路決して近からず

青海苔のよき町とのみ子を育て

雁帰るわれ等は街をひたに抜け

こごえゐし雨滴こぼしぬ白椿

夜を白き椿心を納む刻

川の香とわかれいよりの春の闇

春ショール誰に急ぐとなけれども

春ショール出でては人にしたがひつ

啓蟄のすぐ失へる行方かな

まどろみの覚め白さびし花りんご

いつしかに座も満ち積むか春の雪

春の雪このねんごろの姉妹かな

父と母の記憶のほかの壺すみれ

梅の里艶めきよぎる山鴉

一本と乞へば一本土筆くれぬ

初蝶や帚目に庭よみがへり

城内といふ夏迫る夕座敷

西海の風花人はまだ唄ふ

紅梅の初花何をうたがはむ

春塵や一人もよるし行かしめよ

母の声子の声まじりヒヤシンス

夢さめて春暁の人みな遠し

芦の角昔の水の流れ来る

初蝶の黄の確かさの一閃す