雨一過竹林深き初音かな
畦焼きて家路決して近からず
青海苔のよき町とのみ子を育て
雁帰るわれ等は街をひたに抜け
こごえゐし雨滴こぼしぬ白椿
夜を白き椿心を納む刻
川の香とわかれいよりの春の闇
春ショール誰に急ぐとなけれども
春ショール出でては人にしたがひつ
啓蟄のすぐ失へる行方かな
まどろみの覚め白さびし花りんご
いつしかに座も満ち積むか春の雪
春の雪このねんごろの姉妹かな
父と母の記憶のほかの壺すみれ
梅の里艶めきよぎる山鴉
一本と乞へば一本土筆くれぬ
初蝶や帚目に庭よみがへり
城内といふ夏迫る夕座敷
西海の風花人はまだ唄ふ
紅梅の初花何をうたがはむ
春塵や一人もよるし行かしめよ
母の声子の声まじりヒヤシンス
夢さめて春暁の人みな遠し
芦の角昔の水の流れ来る
初蝶の黄の確かさの一閃す