和歌と俳句

中村汀女

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うち霞み山頭の火ぞあきらかや

や母をかたへにパン切れば

暮春声を惜しまず夕鴉

梨の花ふるさと人の早寝かな

春眠に花ほどきけり玉椿

春眠の臥床そのまま海明り

来し片も日差たしかに豆の花

春の星たたむ露店の手順かな

さくら餅帰心そのまま甘かりし

子等さへも夕ぐれあはれ春しぐれ

野火走る消すことのみにかかはれる

青き踏み己おどろく帰心かな

ふるさともひとりの道ぞ青き踏む

春暁を覚めし己のありどころ

母と行く一筋道の花菜かな

おのおのにひとりの渚櫻貝

まつすぐに母を訪ふ道花曇

古きよき渡佛の話春夕べ

ひこばえの空を占めたる鳥語かな

蜃気楼われはわづかに句帳持ち

夕明り紅梅ひたと花揃へ

咲くまづ真向の川風に

春水の白く抗ふ子等の脛

うたがひもなき春水の一平ら

おぼろ夜のさだまる灯影母の窓