三月の声きくまでの二月かな
或夕べうすむらさきの二月かな
昇る日に冴え返る色見えにけり
両岸の土手の遠さや猫柳
瀬の魚の未だとばざる猫柳
洗ひ牛追ひあぐ岸や猫柳
春雪や風邪がなほりし人ばかり
西空も暮れてしまうて朧かな
眼前の灯にあるものの朧かな
春暁や二重カーテンそのままに
春暁や寝床に思ふ梅の花
暁雀ものがたるごと囀れる
かしこの屋根にここなる屋根に春の鳩
春泥や誰れが落しし梅一枝
春泥にはるばる道の夕日かな
春泥やふとこちむきて人通る
末黒野もいつしか青み蘆の角
潮引けば江の水もひく蘆の角
蘆の芽に舟踏みあそぶ水輪かな
道よけて立てる田馬に鈴を見し
祖先よりうけ居る山に畑を打つ
畑打の草根拾うてすてて居り
紅梅を緋桃をくぐり登臨す
春や園登行自卑の己づから
春の欄間乱るる蝶のすかし彫