ゆく雁の遠まりて水に映りけり
雁面を花の鏡に見てや行く
ゆく雁の夢か形見かうむぎの芽
田よりたちて帰雁のひろ尾黒かりし
漆黒に反り出て嘴や春の雁
去ぬ雁奴薺はこべらべたべたと
春雁に日させば影のうごきけり
行く雲やねむけざす瞳の春の雁
行雁や燦として団旗濃紫
ゆく雁を見張る白雁でありにけり
ゆらりゆく白雁にのる老や誰
古郷やいづこをゆくも燕
菜の花の土に下りゐし燕かな
日を負へば燕紫紺の翼かな
月の出とややへだたりて大樹の芽
中空に大木の芽や月と雲と
銀杏の芽すでにこまかき露ためて
大巌ののぞめる池や春の鯉
ももいろに蕾む椿や花の奥
咲きつぐも乙女椿は花落ちず
遅に来て屋根つくろひの親子かな
霞む野を行く人の姓何ならん
蒲公英の葉に湛へ居り雨滴
蒲公英を瞳に遂へば野の涯もなし