和歌と俳句

原 石鼎

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ゆく雁の遠まりて水に映りけり

雁面を花の鏡に見てや行く

ゆく雁の夢か形見かうむぎの芽

田よりたちて帰雁のひろ尾黒かりし

漆黒に反り出て嘴や春の雁

去ぬ雁奴薺はこべらべたべたと

春雁に日させば影のうごきけり

行く雲やねむけざす瞳の春の雁

行雁や燦として団旗濃紫

ゆく雁を見張る白雁でありにけり

ゆらりゆく白雁にのる老や誰

古郷やいづこをゆくも

菜の花の土に下りゐしかな

日を負へば紫紺の翼かな

月の出とややへだたりて大樹の芽

中空に大木の芽や月と雲と

銀杏の芽すでにこまかき露ためて

大巌ののぞめる池や春の鯉

ももいろに蕾む椿や花の奥

咲きつぐも乙女椿は花落ちず

遅に来て屋根つくろひの親子かな

霞む野を行く人の姓何ならん

蒲公英の葉に湛へ居り雨滴

蒲公英を瞳に遂へば野の涯もなし