和歌と俳句

阿波野青畝

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

伶人も朝寒の洟かめりけり

砧の灯芋の嵐にいきいきと

入相の鐘のあとなる良夜かな

白露にけしきかはりぬ天の川

太白の照るばかりなり露時雨

凹みたる藁屋の上のの空

草の実をゆひ栞あり下り鮎

露膨れむすびこぼるる零余子かな

烏瓜老の手力あまりけり

魂ぬけの小倉百人神の旅

みささぎを衛る祖父の外套かな

霜除やこころにくくも蝶の影

方丈の風邪嗄れたまふ一偈かな

探梅やみささぎどころたもとほり

夕づつの光りぬ呆きぬ虎落笛

梅嫌果ててゐるなり虎落笛

時雨来と屏風の歌仙隠りけり

丹頂の相寄らずして凍てにけり

梭の手の染みし娘ぞ三十三歳

たもとほる寒鯉釣の一人かな

病む人に春の曙自ら

葛城の山懐に寝釈迦かな

曙の早き畦塗立てりける

八重葎おもひおもひに末黒かな

治聾酒に酔ひかたまけて老母かな

嬌柳やうやうにして静りし

婆の箸お粥すずしくまゐるかな

陋巷の裏に表に菖蒲かな

海鰻売りの居村まはりてかな

汗ばみし面をぬぐふ御成かな