和歌と俳句

原 石鼎

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初夏のイルミネーションの銀座かな

初夏和歌の浦とはなりにけり

卯月野の見るものに城の遠霞

まがたらの葉につつみたるお餅かな

柏なき国まがたらの葉の餅

少年の目にまがたらの五月かな

まがたらの葉摘に笊を一つづつ

まがたらの葉むしる子等や神ながら

紀三井寺楠若葉を右方に

虫つきし薔薇をのぞける夫婦かな

子守子の白粉つけて薔薇の園

麦畑くすぶり色に熟れにけり

青山のふもとに麦の小家かな

熾んなる麦の秋かな大石見

中海のほとりに熟るる穂麦かな

麦穂よりこぼれ移りし蝶一つ

大松の林の中や麦を搗く

麦笛や岸の真昼の繋ぎ舟

麦笛を吹く子径に現はれし

麦笛を吹く子に雲の美しき

麦笛の子等並び来る穂麦かな

麦笛の子に大阪の霞かな

月影や門の小溝の杜若

梅雨晴や藺田を培ふ女一人

梅雨晴や藺田のほとりの女学校

御像やお乳のあたりの梅雨明り

梅雨闇やお乳のあたりの御木目

この干潟一面の蟹と申すべし