原 石鼎
紫や昼の色なる杜若
消ゆ長し進む迅し田の夕蛍
火星いたくもゆる宵なり蠅叩
高殿の畳にありし蠅叩
雲と対して暮るる心や蠅叩
日のさして日もすがらなる大南風
地の闇を這ひなく猫や夜の南風
青芝の真昼に近き海の音
若竹にかざ雲迅き日のありぬ
若竹にそよげる風や藪の中
若竹に晩鐘の余韻今ぞ今ぞ
水無月の枯葉相つぐ梧桐かな
この浜の砂の熱さや雲の峯
一方に月さしかかる雷雨かな
夏の月昼よりかかり松の上
宵たけていよいよ小さし夏の月
夜のかなた甘酒売の声あはれ
男霊は陽に女霊は月にひでりかな
蝸牛かたまりねむる旱かな