和歌と俳句

釈迢空

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沙山に、合歓木と 槐と あはれなり。夕しほ風に、なべて ゆれつつ

合歓木 槐 深く垂れつつ 梢低し。沙風 枝を吹き潜りつつ

沙原に、雨近からむ。ねむの花 赤も 高焉@色深まりぬ

沙山は 既にしづまるねむの梢━花こまやかに ゆれてゐるなり

日のくもり ゆふべに似たり。ひぐらしや 声みじかくて、ふたたび 鳴かず

曇りつつ 夕づくらむか。沙山のねむの葉むらは、いまだねなくに

ねむの葉や すでに睡れる丘の沙 木梢は赤し。ねむの夕花

沙原に 沙の吹き立つかげ ありて━見れば、静かに移ろひにけり

沙原に 沙の流らふ音すらし。鴉二羽ゆく。頭よぎりて

はろばろの わたの沙原。時をりに 鴉ゐるらし━声 起りつつ

このあたりまで 来て━波おとのなかりけり。沙こまやかに うへ堅くあり

いきどほろしく来て、浜ばうふうを抜きにけり。茎白じろと 太りゐにけり

白々と ばうふうの茎 太りたり。根を見れば、赤く染みてゐるなり

ねむ ゑんじゆ 立ち静まれるま昼凪ぎ。沙山いよよ かすみつつゆく

かくしつつ すべにまどへり。沙山の沙にうもるる わが身ならまし