和歌と俳句

釈迢空

前のページ<< >>次のページ

山寒き起き臥し 馴れて聴きにけり。土用時雨の たまさかに過ぐ

をみな子の立ち居するどし。山の子に、よきこと言ひて 人は聞きず

この夏も、われ痩せにけり。山高み、膚かわきて 日ごろ住むなり

山なれば、夏萩多く散りにけり。外湯へ通うふひた土の うへ

湯ぶねより 心たゆたに見るものは、湯まどにとどく穂薄の 色

山の湯の 外湯あかるき湯のたたへに、我ありけりと言ふが かそけき

山の宿 人賑はへり。沢の湯に、ひとり来てひたり 独り出でつつ

湯を出でて 心しみらに思ひ居つ。わが腹肉の堅き とがりを

寝がたちの おちつくおぼゆ。谷風の、さだまりて吹く時と 知り居り

寝つつ聴く 谷の枝草のうちよよぎ ほのかに 風の音になり来る

山原に来るあふをみなに もの言ひて、しづけき心 悔いなむとすも

頴娃の村 とほくはなれて、青々し 小松が原に 明り来る雨

うらうらと さびしき浜を来たりけり。日はやや昏れて、ひびく 浪音

海の風 秋と吹くらし。ひたすらに 萱枯れ原のなびくを 見れば

しづかなる村に 出でたり。村のあることを忘れ来りしひと時の 後

鳥のなく山を おり来てたそがれぬ。つひに一つの その鳥のこゑ

ひたぶるに さびしとぞ思ふ。もろごゑの蝉の声すら たえて久しき

ほのぼのと 心ゆるみに聞きゐたり そがひの山ゆ おろし来る風

脚のべて 人はほそぼそと居りにけり。沙をはらみてゐる そのをみな