和歌と俳句

山口誓子

炎昼

大学生髪油にほはす夏休み

夏休みむかし蒼白の大学生

風呂を焚き梧桐松ヶ枝をけぶらする

向日葵に天よりも地の夕焼くる

雲焼けて向日葵のみを昏くせる

喪の花環ミモザをはじめ既に萎ゆ

病癒え来しはよき日の秋の墓地

墓に向け秋咲く花の環を置ける

秋天に爆音ひびく雲ひとひら

秋の雲天のたむろに寄りあへる

秋の雲つめたき午の牛乳をのむ

秋の雲はてなき瑠璃の天をゆく

秋の雲うすれて天の瑠璃となる

墓地に聞くおるがん天に秋の雲

張れる帆の高低の帆の立ち霧らふ

なけり髭を剃らめと思ふのみ

天に向け享けよとのよき花環

こがらしの夜の岐谷にわれ等住む

もの書きて端近くゐればゆく時雨

寝て聞きし鞭のおとは焚火なり

金色の手提を枯れし園に持つ

凍むあさの臥処を起きて露天なり

天さむく白玉の米を粥に焚く

放浪の焚火を夜の燈となせり

春雪を来し護謨靴に画廊踏む

春雪を来し蝙蝠傘と画を目守る

春日を鉄骨のなかに見て帰る

春の日の晩照のなかになほ勤む

城頭に白藤咲けりすでにこぼれ