和歌と俳句

山口誓子

炎昼

をさなきはも白緑の腋のした

人妻も頭髪饐ゆる夏となりぬ

鎧戸を夏樹照り入る君が御座

輪転機初夏のグラフを刷れる見られ

初夏の河岸ほろほろと青き瓦斯ともる

航海燈河港に泊てし初夏の夜も

船員等河港暑くしてたのしまず

御鏡の間は常に鎖す暑きけふも

夜の夏天船より見れば銀河ながれ

南風つのり湖東の城の鳴りわたる

南風しろく湖の岬ながら浪寄する

南風の浪桐咲く梢を走りつぐ

南風にとぶ鷹ぞ天守に吹きかへされ

咲けり天守に靴の音あゆむ

蛍火と天なる星と掌をこぼれ

蛍火に天蓋の星うつり去り

いなびかりかがやく籠に来る

蛍籠極星北に懸りたり

蛍籠むしろ星天より昏く

揺るる星宙に繋れり蛍籠

蛍籠あすをよき日と星揺るる

銀河濃き天球を船に戴けり

天守まで砲車轟きて昼寝さむ

昼寝より天守にさめぬ天の高処

夜の涼しさ燈台迫門に照りて消ゆ

夜の涼しさ関門に繋る船を見ず

夾竹桃荒れて台風圏なりけり

夏の夜のひと寝たる燈を陸に見る

夏炎ゆる機関部は見ずて船を下りぬ

夾竹桃白しと見つつ兵

馬の股白く汗しぬ軍の馬

夜行軍汗の軍帽を手に脱げる

緑陰の空の推進器降りんとする

緑陰に聞きて爆音の翼ちかき

緑陰に低き機体を身に感ず

夜の蓮に婚礼の部屋を開けはなつ