冬梅や夕焼雲に音こもる
灯を消して星におどろく火鉢かな
すゐとんや埋み火あかり頬にさす
生葱を噛めば軒うつ氷雨かな
埋み火やまことしづかに雲うつる
霜柱白し東京を去る人等
短日や脱ぎて地に置く鉄兜
霜柱身をかこむ闇ふかかりき
笹鳴や死後への汚れ焚きすてて
日曜の焚火青春灰となる
短日や灯にかざしみる切粉傷
冬の月骨髄に悔のこりけり
冬の月かかる明るさ忘れんや
闇ふかき畳のさむさ妻呼べば
爆音の間は絶えつつも餅の音
食ひ惜しむ一片の餅月させり
極月の乏しき餅をふるまはる
霜柱踏み折る音の過ぎにけり
短日のものうつくしく灯ともりぬ
大年の柱ただしく灯りぬ
極月の欅をくだる風の音
配給の薯四五本と年を越す
大年の霧吹きおろす九段坂
いのちあるものなつかしく笹鳴けり
負ひてさむき人の遺稿の三四篇