月さすか妻の留守なる雪のいろ
なつかしき神田も失せて石に霜
残雪に北斗のふれんばかりなる
冬月を負ひ立てるものみなくらし
春きざす月に瓦斯洩れゐたるかな
残雪に雨さうさうと機影なし
時せまるこの土この石冬びかり
戦死電大いなる春の朝焼に
爆音にたつややありて雪雫
この崖に幾哀歓の笹氷柱
残雪に雨こそそそげ蕭々と
木瓜の朱にこころかたむききれぬかな
冬終る天の西方に雲一片
焦土日々いつ燕を見るあらむ
火の色の風がうがうと木の芽だつ
火いろさすときの木の芽に焦衣干す
梅咲いて炎の天をささげたり
春寒や石がいただく雲一朶
残雪や双手握りに書と靴と
春の歌米の絶えたる厨より
冴えかへるもののひとつに夜の鼻
春寒の眉こがしたるたよりかな
木の芽だつ生きて逢ふとも言寡な
惜しみ置く箸も茶碗も冴えかへる
牡丹の芽萌えむとすなり見ておかむ