和歌と俳句

加藤楸邨

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霜柱この土をわが墳墓とす

焼夷弾あかあかひらき年明けぬ

焼夷弾爆ぜて枯木の形立つ

冬梅や喜悲をわすれしにはあらず

初明り高射砲音とどろくとき

冬雲にたたかへる間も地球めぐる

胸うづくまで冬竹の青かりし

踏めば鳴る落葉の下の霜柱

笹鳴や崖の一日音もなく

水仙にとどかざる日と暮れにけり

生きてゐて氷下に金魚うごきたり

凍てはててゐしゆゑ心一筋に

爆痕より凧を冬日にあげてをり

追羽子や背にからからと鉄兜

ひときれの餅をわけあふ空襲下

冬雲や北斗杓より没し去る

暁の冬雲星を吐きにけり

明けそめてゐて寒雀まだ見えず

子がかへり一寒燈の座が満ちぬ

鷦鷯ひそかに過ぎし午前午後

童等のうつくしき目や枯木立つ

靴底のあたたまりをり寒椿

枯笹に大いなる星灯りけり

星の位置たしかめあふぐ霜柱