五十嵐播水
月の面に蓮高々と舟進む
蚊遣火のをりをり燃えて月見舟
うすうすと月の暈あり沼の上
煙突の空をわたりぬ今日の月
月さすや籬の奥の石の門
大牛を恐るる児あり牛祭
牛祭火に護られて四天王
涯しなき長祭文の摩叱羅神
元年に生れし父や明治節
夜学の灯洩れ合ふ寮の廊下かな
湖に雨降る蚊帳の別れかな
ひたしある障子二枚や紙屋川
人よけてしたたか揺れぬ稲車
秋の国日の照り昃るしづかかな
濠あれば居る菱舟や淀の秋
えりの門を棹さし入りぬ菱の舟
藪の面に夕鵙猛り現れぬ
轡虫忘れてをれば鳴き出しぬ
日曜につづく旗日や鯊の秋
欄によれば見上ぐる鹿のあり