新妻の起ち居そぞろや大晦日
除夜の鐘聴くや炭斗引寄せて
寒月や比叡より高き如意ヶ嶽
牡丹雪に障子再び開きけり
北風や夜店尻なる古雑誌
奥嵯峨へ帰る尼なり時雨傘
霜凪や大煙突の薄けむり
顧みて馬車まだ見ゆる枯野かな
冬寺の使はぬ部屋を通りけり
冬寺の庭に音ある筧かな
牡蠣舟に揺られごころの旅情かな
牡蠣舟を出るや牡蠣割既になし
炭火消す煙や月に騰りけり
炭つぐや寝静まりたる吉田町
何もかも布団にかけて旅寝かな
ストーブにくべて悔なき手紙かな
懐炉入れて淋しく試験受けにけり
飯すめば病母につどふ冬灯
夜となれば晴るる空やな凍豆腐
黒谷の夜を鳴き交はす梟かな
眉月を引く明星や枯芭蕉
雪解けの雫忙しや藪柑子
鳴り出でしオルガン時計水仙花
宮島の灯を指し旅の蜜柑むく
山寺や縁の下より冬椿