北原白秋

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鳩鳶 雀うぐひす 矮奚の鶏 この朝聴けば いろいろの鳥

朝霧に ほろこほろこと 啼くこゑは ここの御寺の 鳩にかもなも

日に黝む 紅の扇骨木は 梅雨前と 刈りそめにけり 朝涼夕涼

何の木の 秀枝しづもる 夜目にして しろくはさらと 落つるその花

短夜は いまだ暗きに 小嵐や 朴の木の梢を 搖りぬまさしく

下葉うち たたと石うつ 清し花 朴の木の花の 一夜落ちつつ

墓石に 朴の散花 日を経れば 縁朽ちにけり 一瓣一瓣

直土に 饐えつつ黄ばむ 朴の花 晝は仔犬が 掻きてゐにけり

石の邊は 朴の散花 數ふえて 梅雨の日癖の 雨期に入りにし

墓原は 小雨しめやぐ 夜に嗅ぎて 吾が堪へがてぬ 大葉樫の花

花樫の 香に立つきけば けんぽなし 若葉ふきあかる 山恋ひにけり

姥目樫 かをす雨夜は つれなくて かしこかりけり 墓地を抜けをり

香にはずむ 樫の木ぐれは 夜ごもりに 苦木の花も ふけにつらむか

花季は 樫の木ぐれを 行きありく 餓鬼もこそをれ 眞夜ふけにけり

椎かしは むせぶここらの 雨夜月 卵塔はわびし 照りもかへさず

樫いとど にほふ眞闇と なりにけり 夜ふけくるひたつ 鳥獣のこゑ

聲呼ばふ 墓地のかかりの 夕餉どき 遊びあかねば 子らは愛しも

晝のごと 青葉かがよふ 燈のおもて 墓地のはひりも ここだすずしさ

陸橋に 灯の點く見れば 夜靄立ち 鶯谷の 春も去ぬめり

電柱の 影うちかしぐ 夕月夜 切通し上の あらくさのはな

塔の端 月明らけし ひらら飛ぶ 二つ蝙蝠が 金の羽の裏

和歌と俳句