和歌と俳句

杉田久女

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秋来ぬとサフアイア色の小鰺買ふ

秋のごと瞳澄めば嬉し鏡拭く

秋暑し熱砂にひたと葉つぱ草

障子しめて灯す湯殿や秋涼し

新涼や紫苑をしのぐ草の丈

新涼や日当りながら竹の雨

新涼やほの明るみし柿の数

二百十日の月穏やかに芋畠

二百十日の月玲瓏と花畠

編物やまつ毛目下に秋日かげ

白豚や秋日に透いて耳血色

秋の夜の敷き寝る袴た ゝみけり

汝を泣かせて心とけたる秋夜かな

さみし身にピアノ鳴り出よ秋の暮

うそ寒や黒髪へりて枕ぐせ

朝寒の窯焚く我に起き来る子

朝寒や小さくなりゆく蔓の花

朝寒の杉間流るる日すぢかな

朝寒に起き来て厨にちゞめる子

朝寒の峯旭あたり来し障子かな

汲みあてて朝寒ひびく釣瓶かな

髪結うて前髪馴れぬ夜寒かな

掻きあはす夜寒の膝や机下

髪くくるもとゆひ切れし夜寒かな

先に寝し子のぬくもり奪ふ夜寒かな

ひろ葉打つ無月の雨となりにけり

秋晴や岬の外の遠つ海