和歌と俳句

中村汀女

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

玉子酒ありなしの火に作るとて

茶の花や聞けば嘆きはあるものぞ

極月の毛糸の嵩を編みはじむ

千鳥鳴く海の暮色は唐突に

告ぐべくもなし一帯の枯芭蕉

思ひ捨つ一片に京のしぐれかな

寒禽の叫びて人のけはひあり

寒の水ふくみぬたのみある如し

冬の雨なほ母たのむ夢に覚め

もがり笛話とぎるる恐れけり

枯れ切つて菊美しや一葉忌

枯蔓の引きのこりたる虚空かな

落葉風何たしかむと出でし身ぞ

寒菊やすでにわれらは夜にまぎれ

近松忌思ひもよらぬ町に住み

冬帽子大人の話ききたき子

白し己れひそかに制すもの

しぐるるやなど白波は誘ふなる

ゆかりとぞ誰にいふべき銀杏散る

冬に入る暮しさへぎる白襖

湖渡る冬山の意を近々と