和歌と俳句

中村汀女

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ふるさとにたよりおこたり日向ぼこ

雪投げをして教会にあつまり来

ビルデイングそとは時雨るる荷舟かな

煤煙の今日うつくしや銀杏散る

みそさざい日向ぼこりはうしろむき

冬薔薇や日のあるかぎり暖かし

時雨るると人にまじりて急ぎけり

夕波にまぎるるのかなしけれ

龍のひげ夕方落葉やみにけり

童等の髪吹きたちて落葉風

高きよりたまりこぼるる落葉かな

ひらひらと幹にうつりて落葉かな

枯萩のいよいよ細し夕落葉

あたたかや櫟落葉の降りしきる

慈善鍋昼が夜となる人通り

蕪村忌や枯菊に誦す牡丹の句

竃猫忘れゐしゆゑ腹立てぬ

竃猫打たれて居りし灰ぼこり

寒行の跣足の音の聞えねど

マスク同志向ひ合せてまじまじと

マスクして残れるものの引眉毛

しばらくのにぬれし林かな

よべの灯のまだ點いて居る雪の樹樹

玉霰雪ゆるやかに二三片

湖の如くたばしる広場かな