亀井戸にある日用ある師走かな
年の暮形見に帯をもらひけり
濡れそめてあかるき屋根や夕時雨
疳癪のあとのかなしき時雨かな
中庭に見ゆる海はも冬構
椿咲くことのいたづらや冬構
水鳥や夕日きえゆく風の中
看護婦の銀の時計の寒さかな
カステラにひたして牛乳の寒さかな
粥喰うて冥途の寒さ思ひけり
飲みくちのかはりし酒よ冬籠
炭つぐや雪になる日のものおもひ
冬の夜や星ふるばかり瓦竃
葡萄酒のこの濃きいろや夜半の冬
餅搗やほどなく消えし芝の火事
小田原の梅のたよりや年の暮
寒む空や相生橋の下の海
寒む空や長命寺彼のさくらもち
枯芝に日はかげれども空の色
茶の花に今夕空の青さかな
寺町にひと冬住みし時雨かな
引窓の空より暮るゝ時雨かな
枯菊や褪せつくしたる紅の色
枯菊に日の色あれば悲しめる
故郷の雨の音聞く布団かな