累々と徳孤ならずの蜜柑哉
日あたりや熟柿の如き心地あり
かきならす灰の中より木の葉哉
汽車を逐て煙這行枯野哉
紡績の笛が鳴るなり冬の雨
挨拶や髷の中より出る霰
星飛ぶや枯野に動く椎の影
鳥一つ吹き返さるる枯野かな
さらさらと栗の落葉や鵙の声
空家やつくばひ氷る石蕗の花
飛石に客すべる音す石蕗の花
吉良殿のうたれぬ江戸は雪の中
面白し雪の中より出る蘇鉄
寐る門を初雪ぢやとて叩きけり
雪になつて用なきわれに合羽あり
僧俗の差し向ひたる火桶哉
生垣の上より語る小春かな
立籠る上田の城や冬木立
枯残るは尾花なるべし一つ家
時雨るるは平家につらし五家荘
藁葺をまづ時雨けり下根岸
堂下潭あり潭裏影あり冬の月
扶けられて驢背危し雪の客
戸を開けて驚く雪の晨かな
土手枯れて左右に長き筧哉
はじめての鮒屋泊りをしぐれけり
親子してことりともせず冬籠
力なや油なくなる冬籠
燭つきつ墨絵の達磨寒気なる
燭つきて暁ちかし大晦日
餅を切る庖丁鈍し古暦
冬籠弟は無口にて候
古瓦を得つ水仙のもとに硯彫む
古往今来切つて血の出ぬ海鼠かな
西函嶺を踰えて海鼠に眼鼻なし
一東の韻に時雨るる愚庵かな
凩や鐘をつくなら踏む張つて
二三片山茶花散りぬ床に上
早鐘の恐ろしかりし木の葉哉
初時雨吾に持病の疝気あり
柿落ちてうたた短かき日となりぬ
提灯の根岸にかえる時雨かな
暁の水仙に対し川手水
塞を出てあられしたたか降る事よ
熊笹に兎飛び込む霰哉
病あり二日を籠る置炬燵
水仙の花鼻かぜの枕元
行く年や猫うづくまる膝の上
焚かんとす枯葉にまじる霰哉