颱風過南透きて鴎舞ふ
颱風過看護婦ら未だ肘をかくさず
立ち眩みしが明るみ来残暑の樹
樹々の葉の顫へ湛ふる残暑光
命惜しむ如葉生姜を買ひて提ぐ
月の出や噴水凋み凋みて熄む
秋の蛇療の森遠長し
病者地に書き語らへり韮の花
栗剥けり喀血窒息屍通りをり
窓枠も狭の楢櫟野分だつ
顔わかぬまで病廊長き野分かな
野分あと口のゆるびて睡りをり
傷める芒妻の言のみ聞きつつ待つ
秋の夜の一つの椅子とバレリーナ
草の絮樹頭をよぎるもはや落ちず
遠く病めば銀河は長し清瀬村
梱包に草の穂絮は木て載るも
かたまりて露の穂絮やけふ飛ばん
露の鳩森の光は顫ひ射す
木犀に暫し居りレントゲン室に暫し居り
雁遠し病室の窓跨ぎ出て
露の樂永き病の糞まりをり
栗落とす女を見つつ湯浴みをり
子等遠し病力もて胡桃割る
鏡黒く秋日の切株纏きてをり
臥て読む劇病廊行けば秋の風
重大なる如く夜露の雫しつつあり
暁寒くコップに水の残り死す
わが鼻の未明に泛び鵙なけり
末枯径吾妻よ胸をはり帰れ
雲暗き幾日衾に顎埋め
子を思ふ日ねもす捨菊見えてをり
暁に死せば息白き者等圍み立つ
屍の透きて通れる楢黄ばむ
鉈置きて病者跼めり露霜す
夕黄葉赤犬負けて駆けたりき
黄ばむ森にかかるや後ふりかへる
顔白め未明の菊の傾きつ
猛れると呟きをると鵙二つ
鵙の目の病者へくるや横に翔つ
病室の中まで黄葉してくるや
夜の菊柔かし睡られずをり
黄葉寒引揚寮へ道傲り
朱欒割くや歓喜の如き色と香と
残菊より低く病者等跼み合う