和歌と俳句

石田波郷

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15

青瓢も君が家の子迎へらる

朝富士やまだ帰らざる燕たち

三鬼亡き磯は一すぢ天の川

水引草目が合ひて猫立停る

君が子も背高のつぽ仰ぐ

われも亦子を叱し得ずちちろ虫

生涯にひとたび会ひき水引草

稿了へて君がかたみの夜寒酒

いとどの辺賜ひし酒を今も酌む

の嘴東京オリンピック来向へり

つづれさせ贋福耳にしじならむ

月代や蘂うかべたる曼珠沙華

十六夜の月無しの酒さめ易し

つづれさせ夫婦に団子乾びけり

力漕見るまくなぎのつく顔振りて

菊参差競漕過ぎし水ふちどり

爽かに敗者復活に行く艇よ

穂草敷いて競漕遠見の一家族

水甕に降りだす雨や後の月

兵の日以後駈けしことなし草虱

錆鮎やいたはられゐる小盃

ひしめけり掘られて風の落花生

小廻りに蒟蒻の蝶棉の蝶

とろろ葵もすがれぬ桑も括るべし

唐黍を干していよいよ古庇

の歌ピーマンの紅極まりぬ

虔しき酒のはじめや煮染

忍冬のだらだら花や法師蝉

昼の雷夜の雷水巴忌なりけり

稲光朴の枝羽搏つ如くなり

暮れはててなほ鳴く蝉や敗戦日

法師蝉終の二人になり給ふ

顔出せば一抹のこる秋没日

居待月はなやぎもなく待ちにけり

栗菌酒は飲めねど君を祝ぐ

女男坂もろともに昏れ秋の暮

酒飲にひと夜まじれる柚味噌かな

裾なでて妻の水引はびこりぬ

椿の実拾へる妻を見つつ謝す