和歌と俳句

藤原顕仲

草枕 鴫の羽音に 夢さめて 空にぞ明くる 程は知らるる

おほつかな いざいにしへの こととはむ あこやの松と ものがたりして

うぐひすの ねぐらにしむる なよ竹は いづれの枝か ふしとなるらむ

よこね島 下葉に生ふる さがり苔 露かからねど かわく間もなし

あさひこや 今朝はうららに 射しつらむ 田の面のたづの そらに群れ鳴く

あづまぢや 知らぬさかひに やどりして 雲ゐに見ゆる 筑波山かな

名にしおはば あふくま川を 渡りみむ 恋ひしき人の 影やうつると

旅人の 行くほど遠き 武蔵野は 草さへ深く なりにけるかな

白雲の よそにききしを みちのくの 衣の関を きてぞ越えぬる

朽ちにけり 人もかよはず いそのかみ ふるのの沢に 渡すまろ橋

かけさかり 由良のと渡る 柴舟の 漕ぎ遅れたる 嘆きをぞする

新古今集・羈旅
さすらふる わが身にしあれば 象潟や あまのとまやに あまたたび寝ぬ

たまきはる 命も知らず 別れぬる 人を待つべき 身こそ老いぬれ

棚つ物 みそのにまきつ いざこども そともの小田に くわゐひろはむ

わがかくる かど田の引板に 驚きて いなおほせ鳥の たちや騒がむ

思ひ出でて 袂そぼちぬ をりぞなき 昔を知るは 涙なりけり

見る人も あるかなきかに なりゆけば はかなきよこそ 夢にはありけれ

山の端に 入りぬる月ぞ あはれなる われもさこそは よには隠れめ

あはれ知る 人しなければ 世とともに わが思ふことを 言はでやみぬる

底清み ながれ絶えせぬ 佐保川の せきりの波や よろづよの数

金葉集・夏
五月雨に 水まさるらし 澤田川 まきの継橋 うきぬばかりに

金葉集・秋
世の中を あきはてぬとや さを鹿の 今はあらしの 山に鳴くらむ

金葉集・雑歌
年ふれど 春に知られぬ 埋もれ木 は花の都に すむかひぞなき

千載集・夏
さみだれに 浅沢沼の 花かつみ かつ見るまゝに 隠れゆくかな

千載集・恋
むすびおく 伏見の里の 草枕 とけでやみぬる 恋にもあるかな

新勅撰集・春
かへりみる やどはかすみに へだたりて はなのところに けふもくらしつ