和歌と俳句

金葉和歌集

坂上望城
ほのかにぞ鳴きわたるなる郭公み山を出づる夜半の初聲

白河院御製
郭公まつにかかりてあかすかな藤の花とや人は見つらむ

中納言女王
郭公ほのめく聲をいづかたと聞きまどはしつ曙の空

前齋院六條
宿近くしばしかたらへほととぎす待つ夜の數の積もるしるしに

源俊頼朝臣
音せぬは待つ人からか郭公たれ教へけむ數ならぬ身と

康資王母
山ちかく浦こぐ舟は郭公なくわたりこそとまりなりけれ

皇后宮式部
ほととぎす雲の玉江にもる月の影ほのかにも鳴きわたるかな

源定信
わぎもこに逢坂山のほととぎす明くればかへる空に鳴くなり

大納言経信
ほととぎす雲路にまよふ聲すなりをやみだにせよ五月雨の空

花山院御製
宿ちかく花たちばなはほり植ゑじ昔を恋ふるつまとなりけり

大納言経信
よろづよにかはらぬものは五月雨の雫に薫るあやめなりけり

藤原孝善
あやめ草引くてもたゆく長き根のいかであさかの沼に生ふらむ

權僧正永縁母
あやめ草わが身のうきにひきかへてなべてならぬに思ひいでなむ

高松上
長しとも知らずやねのみなかれつつ心のうちに生ふるあやめ

左近衛府生秦兼久
おなじくはととのへて葺けあやめ草さみだれたらばもりもこそすれ

藤原定通
五月雨はひかずへにけり東屋の萱が軒端の下朽つるまで

大納言経信
五月雨に玉江の水やまさるらむ蘆の下葉の隠れゆくかな

藤原顕仲朝臣
五月雨に水まさるらし澤田川まきの継橋うきぬばかりに

三宮顕仁親王
五月雨に入江の橋のうきぬればおろす筏の心地こそすれ

神祇伯源顕仲
夏の夜の庭にふりしく白雪は月の入るこそ消ゆるなりけれ