杉むらに しめひきかけて うち人の ひかるばかりに みがく玉垣
木綿紙垂や かけつつ祈る 言の葉は 榊が枝に しげくなるらむ
天の原 いつしぐれして 秋の夜の 月の桂も あかくなるらむ
朝夕に 露のしらたま 見るものを いたくな刈りそ 丘の笹原
涙川 港に浮かぶ 浮草の うきねとどめむ 方のなきかな
元結の 小染の糸を くりかへし 衣の色に ひきやうつさむ
君が代は うれしきたびに 切る杖の 積らむ数を 知る人ぞなき
白糸を 結べるごとに こよひまで いくよろづよの 数つもるらむ
いかにかく 山路を出づる ときのまに 見し人もなく 年の経ぬらむ
立つ波に 鼓のこゑを うちそへて から人寄せ来 おきの島より
かき流す 水屑になれる いきの緒を 結びとどむる 夜こそ辛けれ
をとめ子が 裳裾にあまる 黒髪の なびくを見るぞ いふかたもなき
いやましに 額の波は かかれども 消えずも年の ゆきつもるかな
くろうしがた 漕ぎ出づる海士の とも舟は すずき釣るとや 波間わくらむ
おそろしや 艫櫓はしりて 波間ゆく あからを舟の あからめなせそ
冬来れば なが垣あれて わがやどを 隔てもなくや 君も見るらむ
笛竹の 夜をさへ月や 照らすらむ 空にもこゑの すみのぼるかな
琴のねを ひきくらべてや しらべまし 秋風なれば 身にもしむかな
さがり糸を 見るぞうれしき ささがにの 来る人告ぐる すぢと思へば
朝まだき 楢の枯葉を そよそよと 外山を出でて ましら鳴くなり
金葉集・春
濡るるさへ 嬉しかりけり 春雨に 色ます藤の 雫と思へば
金葉集・夏
夏の夜の 庭にふりしく 白雪は 月の入るこそ 消ゆるなりけれ
金葉集・秋
ささがにの 糸のとぢめや あだならむ ほころびわたる 藤袴かな
金葉集・冬
冬寒み 空にこほれる 月影は 宿にもるこそ 解くるなりけれ
金葉集・恋
さりともと 思ふかぎりは しのばれて 鳥とともにぞ ねはなかれける
金葉集・恋
おのづから 夜がるる程の さむしろは 涙のうきに なると知らずや
詞花集・雑歌
あさましや 君に着すべき 墨染の ころもの袖を わが濡らすかな
詞花集・雑歌
あくがるる 身のはかなさは ももとせの なかばすぎてぞ 思ひしらるる
千載集・釈経
いさぎよき 池に影こそ 浮かびぬれ 沈みやせんと 思ふわが身を
新古今集・雑歌
鴎ゐるふぢ江の浦のおきつ洲に夜舟いさよふ月のさやけさ
新勅撰集・恋
こひのやま しげきをざさの つゆわけて いりそむるより ぬるるそでかな
続後撰集・恋
うたたねの 夢かとのみぞ なげきつる 明けぬる夜半の 程しなければ