和歌と俳句

詞花和歌集

帥前内大臣伊周
みやこにて ながめし月を みるときは 旅の空とも おぼえざりけり

藤原家経朝臣
風越の 峰のうへにて みる時は 雲はふもとの ものにぞありける

藤原隆経朝臣
むかしみし 垂井の水は かはらねど うつれる影ぞ 年をへにける

大江正言
思ひいでも なきふるさとの 山なれど 隠れゆくはた あはれなりけり

前大納言公任
いにしへを 恋ふるなみだに くらされて おぼろにみゆる 秋の夜の月

堀河右大臣頼宗
そのことと 思はぬだにも あるものを なに心地して 月をみるらむ

藤原相如
夢ならで またもあふべき 君ならば ねられぬいをも なげかざらまし

円融院御製
思ひかね ながめしかども 鳥辺山 はてはけぶりも みえずなりにき

少将義孝
ゆふまぐれ 木繁き庭を ながめつつ 木の葉とともに おつるなみだか

待賢門院安芸
人しれず もの思ふことも ありしかど 子のことばかり かなしきはなし

清原元輔
生ひたたで 枯れぬとききし このもとの いかでなげきの 森となるらむ

清原元輔
けふよりは 天の河霧 たちわかれ いかなる空に あはむとすらむ

返し よみ人しらず
たなはたは 後のけふをも 頼むらむ こころぼそきは 我が身なりけり

神祇伯源顕仲
あさましや 君に着すべき 墨染の ころもの袖を わが濡らすかな

赤染衛門
こぞの春 ちりにし花も さきにけり あはれ別れの かからましかは

崇徳院御製
いづる息の いるを待つまも かたき世を 思ひしるらむ 袖はいかにそ

藤原有信朝臣
涙のみ 袂にかかる 世の中に 身さへ朽ちぬる ことぞかなしき

よみ人しらず
をりをりの つらさを何に なげきけむ やがてなき世も あはれありけり

よみ人しらず
人をとふ 鐘のこゑこそ あはれなれ いつか我が身に ならむとすらむ

四條中宮
悔しくも 見そめけるかな なべて世の あはれとばかり 聞かましものを