源俊頼朝臣
蘆火たくやまのすみかは世の中をあくがれいづる門出なりけり
源俊頼朝臣
賤の女がゑぐつむ澤の薄氷いつまでふべき我が身なるらむ
藤原公重朝臣
むかしみし雲ゐをこひて蘆鶴の澤邊に鳴くや我が身なるらむ
右近中将教長
三日月のまた有明になりぬるや憂き世をめぐるためしなるらむ
藤原実方朝臣
ちる花にまたもや逢はむおぼつかなその春までと知らぬ身なれば
増基法師
朝な朝な鹿のしがらむ萩の枝の末葉の露のありがたの世や
源親元
花薄まねかばここにとまりなむいづれの野邊もつひのすみかぞ
四條中宮
よそにみし尾花がすゑの白露はあるかなきかの我が身なりけり
花山院御製
かくしつつ今はとならむ時にこそ悔しきことのかひもなからめ
和泉式部
夕暮はものぞかなしき鐘の音をあすもきくべき身とし知らねば
藤原教良母
うぐひすの鳴くになみだの落つるかなまたもや春にあはむとすらむ
法橋清昭
みな人の むかしがたりに なりゆくを いつまでよそに 聞かむとすらむ
神祇伯顕仲女
この世だに 月まつほどは くるしきに あはれいかなる 闇にまどはむ
良暹法師
おぼつかな まだみぬ道を 死出の山 雪ふみわけて 越えむとすらむ
赤染衛門
代らむと 祈るいのちは 惜しからで さても別れむ ことぞ悲しき
大僧正行尊
この世には またもあふまじ 梅の花 ちりぢりならむ ことぞかなしき
よみ人しらず
この身をば むなしきものと 知りぬれば 罪えむことも あらじとぞ思ふ
増基法師
わが思ふ ことのしげさに くらぶれば 信太の森の 千枝はかずかは
大江以言
網代には しづむ水屑も なかりけり 宇治のわたりに 我やすままし
良暹法師
大原や まだすみがまも ならはねば わが宿のみぞ けぶりたえたる