和歌と俳句

詞花和歌集

賢智法師
なみだ河 その水上を たづぬれば 世のうきめより いづるなりけり

太政大臣実行
思ひやれ こころの水の あさければ かき流すべき 言の葉もなし

大蔵卿匡房
かりそめの うきよのやみを かきわけて うらやましくも いづる月かな

沙弥蓮寂
帰る雁 西へゆきせば たまづさに おもふことをば かきつけてまし

よみ人しらず
身をすつる 人はまことに すつるかは すてぬ人こそ すつるなりけれ

太皇大后宮肥後
筑波山 ふかくうれしと 思ふかな 濱名の橋に わたす心を

大中臣能宣朝臣
年を経て 星をいただく 黒髪の ひとよりしもに なりにけるかな

津守国基
雲の上は 月こそさやに さえわたれ まだとどこほる ものや何なり

返し 修理大夫顕季
とどこほる ことはなけれど 住吉の まつ心にや ひさしかるらむ

大納言成通
白河の 流れをたのむ こころをば 誰かはそらに くみてしるべき

大蔵卿匡房
ももとせは 花にやどりて すぐしてき この世は蝶の 夢にざりける

崇徳院御製
ひさかたの 天の香具山 いづる日も わが方にこそ ひかりさすらめ

源義国妻
このもとに かきあつめつる 言の葉を ははその森の かたみとはみよ

関白前太政大臣忠通
思ひかね そなたの空を ながむれば ただ山の端に かかる白雲

関白前太政大臣忠通
わたのはら 漕ぎいでてみれば ひさかたの 雲ゐにまがふ 沖つ白波

藤原家経朝臣
うちむれて 高倉山に つむ花は あらたなき代の 富草のはな

左京大夫顕輔
板倉の 山田につめる 稲をみて をさまれる代の ほどをしるかな

曾禰好忠
水上を さだめてければ 君が代に ふたたびすめる 堀河の水

宇治前太政大臣頼通
いさやまだ つづきもしらぬ 高嶺にて まづくる人に みやこをぞとふ

道命法師
みやこにて ながめし月の もろともに 旅の空にも いでにけるかな